10年のトリマー経験が教える、犬の毛玉対策と正しいブラッシング

公開: 2026年6月20日更新: 2026年6月22日犬バカ飼い主・ユウ
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トリマーとして10年、愛犬3頭と暮らした私の原点

私がトリマーの資格を取得したのは、今から10年以上前のことです。当時、実家で飼っていたシー・ズーが重度の毛玉で皮膚炎を発症したことが、この道に進むきっかけでした。「もっと早く知っていれば」という後悔が、今の私の活動の根底にあります。

現在はフリーランスのペットグルーミングアドバイザーとして活動しながら、自宅ではトイ・プードル、ボーダー・コリー、柴犬の3頭と暮らしています。犬種によってコートの性質がまるで異なるため、毎日のブラッシングは私にとって「実験と観察の連続」でもあります。

トリミングサロンで延べ1,500頭以上のグルーミングを担当してきた経験から、「毛玉は予防できる」という確信を持っています。このコラムでは、失敗談も含めながら、日々のブラッシングで毛玉を防ぐための知識をお伝えします。


目次

犬の毛玉が引き起こす問題と、その実態

「犬の毛玉くらい大した問題ではない」と思っている飼い主さんは、実は少なくありません。しかし、毛玉は単に見た目の問題にとどまらず、愛犬の健康に深刻な影響を与えることがあります。

ペット産業に関する調査を継続的に行っている一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」によると、国内の犬の飼育頭数は近年横ばい傾向にある一方、ペットの健康・美容に関する飼い主の意識は年々高まっています。同調査では、ペットの「トリミング・グルーミング」への支出が増加傾向にあることが示唆されており、飼い主が愛犬の被毛ケアをより重要視していることがうかがえます。

また、農林水産省が所管する動物行政関連のデータでは、皮膚疾患が犬の動物病院受診理由の上位を占め続けていることが報告されています。その一因として、毛玉による皮膚への圧迫・通気性の低下・雑菌の繁殖が挙げられており、獣医師からも「日常的なブラッシングが皮膚疾患の予防に直結する」という見解が示されています。

毛玉のメカニズムを理解することも大切です。犬の被毛は、外側の「オーバーコート(上毛)」と内側の「アンダーコート(下毛)」の二層構造を持つ犬種(ダブルコート)と、一層のみの犬種(シングルコート)に分かれます。毛玉が特にできやすいのは、アンダーコートが密に生えているダブルコートの犬種や、被毛が細くカールしているプードルなどの犬種です。

抜け毛が新しい毛に絡まり、そこに皮脂や汚れが付着することで毛玉は形成されます。一度できた毛玉はほぐすのが難しく、皮膚を引っ張り続けることで炎症や痛みを引き起こします。ひどい場合は皮膚が壊死するケースも報告されており、「毛玉は放置しない」という原則は、単なる美容上の問題ではなく医療上の問題でもあるのです。

日本獣医師会が公表している診療報酬に関する資料では、皮膚科系の受診件数が全体の約20〜30%を占めるという調査結果が示されています。この数字からも、被毛ケアが犬の健康管理において重要な位置を占めることが分かります。


最初の失敗――シー・ズーの毛玉で皮膚炎を招いた苦い経験

冒頭でも触れましたが、私がブラッシングの重要性を骨身に染みて学んだのは、実家のシー・ズー「むぎ」の出来事がきっかけです。

むぎを迎えたのは私が中学生のころ。ふわふわの長毛が可愛くて、家族全員が溺愛していました。しかしブラッシングに関しては、「週に1〜2回やっていればいいだろう」という程度の認識しかありませんでした。

異変に気づいたのは、むぎが頻繁に後ろ脚で耳の後ろを掻くようになったときです。見てみると、耳の後ろから首にかけて大きな毛玉が複数できており、皮膚が赤く腫れていました。動物病院で診てもらうと、毛玉が皮膚を引っ張り続けたことによる接触性皮膚炎と診断されました。

獣医師に「毎日ブラッシングしていましたか?」と聞かれ、答えに詰まったことを今でも覚えています。毛玉をほぐすためにはトリマーによるシェービングが必要になり、むぎはかなりの範囲の被毛を刈り取られました。痛みと慣れない施術で震えていたむぎの姿が、今でも頭から離れません。

この経験がなければ、私はトリマーを目指していなかったかもしれません。「予防できたはずの痛みを、愛犬に与えてしまった」という後悔は、現在の私がお客様の飼い主さんに丁寧なブラッシング指導をする原動力になっています。

長毛種のシー・ズーは、特に耳の後ろ・脇の下・内股・肉球周りに毛玉ができやすい犬種です。これらの部位は摩擦が多く、被毛が絡まりやすいため、毎日のブラッシングでも重点的にほぐす必要があります。むぎの件以来、私は「耳の後ろから始める」を鉄則にしています。


トイ・プードルとの試行錯誤――コームとスリッカーの使い分けを覚えるまで

トリマーの資格を取得後、自宅でトイ・プードルの「きなこ」を迎えました。プードルのカーリーコートは毛玉ができやすいことで知られており、「プロとして完璧にケアできるはず」と自信を持って臨んだのですが、そう簡単にはいきませんでした。

資格の勉強では主にモデル犬を使った実習が中心で、自分の犬を毎日ケアするという経験とはやや異なります。きなこは子犬のうちはおとなしくブラッシングを受け入れてくれていましたが、成長するにつれてブラッシングを嫌がるようになりました。

原因は、私のブラッシング方法にありました。毛玉をほぐそうと、根元からスリッカーブラシを強く当てていたのです。これでは皮膚に負担がかかり、犬にとって痛みを伴う体験になってしまいます。きなこがブラッシングを嫌いになったのは当然のことでした。

先輩トリマーにアドバイスをもらい、正しいアプローチを学び直しました。毛玉のほぐし方には「毛先から少しずつほぐしていく」という基本があります。根元から引っ張るのではなく、毛束の先端をコームでほぐしてから、少しずつ根元に向かってアプローチする方法です。

また、コームとスリッカーブラシは用途が異なります。スリッカーブラシは主にアンダーコートの除去や毛並みを整えるために使い、コームは毛玉の有無を確認したり細部をほぐすために使います。この2つを状況に応じて使い分けることで、きなことのブラッシングタイムは劇的に改善されました。

今のきなこはブラッシングが大好きで、ブラシを持つとしっぽを振りながら近づいてきます。「ブラッシングは楽しいもの」という経験を積み重ねることが、長期的な被毛ケアの成功につながると、きなこが教えてくれました。


ボーダー・コリーの換毛期――ダブルコートの「抜け毛の嵐」に向き合う

2頭目に迎えたボーダー・コリーの「そら」は、ダブルコートの典型的な犬種です。毎年春と秋に訪れる換毛期には、文字通り「毛の嵐」が吹き荒れます。

初めての換毛期を迎えたとき、私はその抜け毛の量に驚きました。毎日ブラッシングしているにもかかわらず、翌日にはまた大量のアンダーコートが浮き上がってきます。「これは終わりがないのでは」と途方に暮れたことを覚えています。

換毛期のブラッシングで最も大切なのは、アンダーコートを効率よく除去することです。アンダーコートが皮膚近くに残ったままになると、蒸れて皮膚炎の原因になります。特にそらのような密度の高いダブルコートを持つ犬種は、表面のオーバーコートをかき分けてアンダーコートまでしっかりブラッシングすることが欠かせません。

換毛期のブラッシング頻度は、通常の毎日から「朝晩2回」に増やすことにしました。ブラッシングの時間も1回あたり20〜30分かけて、全身を丁寧にケアします。最初は時間がかかることをストレスに感じていましたが、今ではそらとのコミュニケーションの時間として、むしろ楽しんでいます。

ブラッシング後のそらの被毛は、見違えるほどふっくらとして光沢が増します。「ちゃんとケアできた」という達成感は、手間をかける価値があると改めて感じさせてくれます。換毛期は飼い主にとってハードな時期ですが、乗り越えた先には美しい被毛を持つ愛犬の姿があります。


柴犬の「触られ嫌い」問題――信頼関係を築きながらブラッシングを習慣化する

3頭目の柴犬「くり」は、保護犬として2歳のときに迎えました。前の環境でどのような経験をしてきたのか詳しくは分かりませんが、迎えた当初は全身を触られることを極端に嫌がりました。

ブラッシングを試みると、体を固くして逃げようとします。無理に押さえつけると唸ることもありました。このような状態でのブラッシングは、犬にとってトラウマになるリスクがあります。私はいったんブラッシングを諦め、まず「触られることへの慣らし」から始めることにしました。

行動学の観点から言うと、これは「脱感作(だつかんさ)」と呼ばれるアプローチです。嫌なものに少しずつ慣れさせることで、恐怖や不安の反応を和らげていきます。最初の1ヶ月は、ブラシを手に持ちながらくりの横に座るだけにしました。ブラシを見せながらおやつを与えることで、「ブラシ=良いことが起きる」という関連づけを作っていきます。

2ヶ月目には背中に軽くブラシを当てる練習を始め、3ヶ月後には全身のブラッシングができるようになりました。この過程は決して焦らず、くりのペースに合わせることが最も重要でした。

柴犬のダブルコートは換毛期に大量の抜け毛が出るため、定期的なブラッシングは健康管理上も必要です。今のくりは完全にブラッシングを受け入れており、背中をブラシでなでると気持ちよさそうに目を細めます。時間はかかりましたが、信頼関係の構築なくして毛玉対策はあり得ないと、くりが教えてくれました。


飼い主さんへのアドバイス――毎日続けるための工夫

毛玉対策で最も大切なことは、「完璧なブラッシングを週1回する」よりも「短時間でも毎日続ける」ことです。たとえ5分のブラッシングでも、毎日続けることで毛玉の形成を大幅に抑えることができます。

まず、ブラッシングのタイミングを日課に組み込むことをお勧めします。朝の食事の後、散歩から帰ったとき、夜のリラックスタイムなど、愛犬の生活リズムに合わせて「ブラッシングをする時間」を決めると習慣化しやすくなります。

部位の優先順位も意識してください。毛玉ができやすいのは、耳の後ろ・脇の下・内股・肘・肉球の周りです。時間がないときはこれらの部位だけでも重点的にブラッシングするだけで、毛玉の予防効果が高まります。

ブラッシング後は必ずコームを通して、根元まで毛玉が残っていないか確認する習慣をつけましょう。スリッカーブラシだけでは表面しかケアできていないことがあります。コームがすんなり通れば、ブラッシングが十分に行き届いているサインです。

愛犬がブラッシングを嫌がる場合は、無理に続けることをせず、まず「ブラシを見せながらおやつを与える」ところから始めてください。ブラッシングを「良い経験」と結びつけることが、長期的なケアの成功に欠かせません。

どうしても手に負えない毛玉ができてしまったときは、ご自宅での対処にこだわらず、トリマーや獣医師に相談することをお勧めします。無理にほぐそうとすると皮膚を傷つけることがあります。


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犬種別×疾患カテゴリ発症率(出典: アニコム損保「家庭どうぶつ白書2023」)(アニコム損保「家庭どうぶつ白書2023」)

出典: アニコム損保「家庭どうぶつ白書2023」

よくある質問

Q. ブラッシングはどのくらいの頻度が必要ですか?

犬種によって異なります。トイ・プードルやシー・ズーなどの長毛・カーリーコート系は毎日のブラッシングが基本です。ボーダー・コリーや柴犬などのダブルコート系は週3〜5回を目安にしつつ、換毛期は毎日または1日2回に増やすことをお勧めします。短毛のビーグルやラブラドールなどは週2〜3回で十分なことが多いですが、換毛期は頻度を上げてください。大切なのは「犬種に合った頻度」を知ることです。かかりつけのトリマーや獣医師に愛犬の被毛タイプを確認し、適切な頻度を教えてもらうと安心です。

Q. すでにできてしまった毛玉はどうすればよいですか?

小さな毛玉であれば、コームで毛先から少しずつほぐすことができます。指でやさしく毛束をほぐしながら、コームを少しずつ根元に向けてアプローチします。ほぐし剤(コンディショナー系のスプレー)を使うと滑りがよくなり、作業がしやすくなります。ただし、大きく固まった毛玉や、皮膚が引っ張られて赤くなっている場合は、自力でのほぐしは危険です。皮膚を傷つけるリスクがあるため、プロのトリマーに相談してシェービングを検討してください。毛は刈っても生えてきますが、傷ついた皮膚の回復には時間がかかります。

Q. ブラッシングを嫌がる犬への対処法を教えてください。

まず、なぜ嫌がるのかを観察することが大切です。過去に痛みを伴うブラッシングをされた経験がある、特定の部位を触られることに敏感、そもそも体を触られることが苦手、といった原因が考えられます。いきなり全身のブラッシングを試みるのではなく、「ブラシを見せながらおやつを与える」「背中に軽く触れるだけ」という段階から始め、少しずつ慣れさせましょう。ブラッシングが終わったら必ず褒め、おやつを与えることで「良い経験」として記憶させます。

また、ブラッシングのタイミングは愛犬がリラックスしているときを選ぶのがポイントです。運動直後や空腹時は避けましょう。


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まとめ――毛玉対策は愛犬との信頼関係そのもの

10年以上トリマーとして、また飼い主として犬たちの被毛と向き合ってきて感じることは、毛玉対策は単なる美容ケアではなく「愛犬との信頼関係の積み重ね」だということです。

毎日のブラッシングは、愛犬の全身を丁寧に観察する時間でもあります。皮膚の異変、しこり、傷などの早期発見にもつながります。「ブラッシングしていたら気になる腫れを見つけて、早期に治療できた」という経験を持つ飼い主さんも、私の周囲に少なくありません。

むぎの皮膚炎、きなこのブラッシング嫌い、そらの換毛期の格闘、くりの信頼構築。それぞれの失敗と学びが、今の私の知識の基盤になっています。完璧なブラッシングができなくても大丈夫です。大切なのは、毎日愛犬に向き合い、少しずつ続けることです。今日から5分だけでも、愛犬の被毛に手をかけてみてください。

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この記事を書いた人

犬バカ飼い主・ユウ
犬バカ飼い主・ユウ

愛犬のためなら散財も辞さない自称・犬バカ飼い主。自分のご飯より犬のご飯にこだわり、ドッグフードの原材料表示を読む時間の方が料理時間より長い。散歩中に他の犬に挨拶しに行く愛犬に毎回振り回されているが、それすら愛おしい。「うちの子が世界一かわいい」は事実だと思っている。

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愛犬のためなら散財も辞さない自称・犬バカ飼い主。自分のご飯より犬のご飯にこだわり、ドッグフードの原材料表示を読む時間の方が料理時間より長い。散歩中に他の犬に挨拶しに行く愛犬に毎回振り回されているが、それすら愛おしい。「うちの子が世界一かわいい」は事実だと思っている。

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